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■ 第30期第12回研究会(マルチメディア研究部会企画)終わる


研究テーマ : 「臨床の哲学・実践のデザイン:コミュニケーションデザインの冒険2
日 時:2006年12月16日(土)13時30分〜17時
場 所:大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)
報告者:
 ・須永剛司(多摩美術大学)
 ・堀浩一(東京大学)
 ・西川勝(大阪大学)
討論者:
 ・甲斐賢治(remo 記録と表現とメディアのための組織)
 ・平田オリザ(大阪大学)
 ・長谷川一(明治学院大学)
司会者:水越伸(東京大学)
参加者:40名

 今回の研究会は、コミュニケーションデザインをキーワードに、「専門家と市民をつなぐ回路作り」をテーマにした議論の第二弾となる。一回目は2006年6月、関西大学でのワークショップで、博物館でのコミュニケーションなどを通して、異分野間の境界線に着目し、そこに新しい回路を切り開こうとする実践的研究をとりあげた。二回目は、大阪万博の跡地、万博公園にある大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)を会場に、メディアとコミュニケーションをめぐる実践について議論を深めた。

 ネットやケータイを使って積極的に情報発信やメディア表現を展開する人々が急速に増えてきているが、一方でさまざまな問題も露呈しつつある。6月の前回は、専門家と市民の関係性を組み替えていくことを射程に含めた新しいメディア研究のあり方を議論したが、今回は市民のメディア表現、社会実践に注目した。両者をより多様で、恒常的で、循環的なものにしていくためのデザインのあり方を、二つのグループによる問題提起と、討論者のコメントを軸に考察した。

 報告はまず、市民メディア、市民芸術を持続的に発展させるためのプラットフォームづくりを目指すCRESTプロジェクト「media exprimo」を始動させた須永剛司氏と堀浩一氏による研究構想の紹介で始められた。須永氏は、市民が表現する社会が始まっていると前置きし、それらの個別的表現を知識化・社会化し、社会の価値ある資源としてゆく仕組みの必要性を強調した。続いて、堀氏は人工知能研究の立場から、「デコンストラクション・エンジン」というコンセプトを掲げ、個別に展開されている表現を集めて一つの物語を生み出したり(結晶化)、物語を解体して操作可能な要素の還元したり(液状化)することが可能な、デバイス開発の現状を報告した。両氏とも、今日の散発的で開示されていない市民表現をアーカイブしたり、結びつけたりすることを市民自らができるような社会的エンジンのデザインの必要性を語ってくれた。

 次に、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)において、臨床哲学に取り組む西川勝氏から問題提起があった。同センターは、専門的知識をもつ者ともたない者、利害や立場の異なるひとびと、そのあいだをつなぐことを目指している。西川氏は、看護士としての経験からディスコミュニケーションに逆説的に着目する。なぜわからないのか、なぜ伝わらないのかを、詳細にみていく必要性と実践に裏打ちされた社会のなかの生きた哲学を強調した。

 これらの報告を受け討論では、大阪で市民の映像表現を支援するNPO組織remoの甲斐賢治氏から、プラットフォームモデルが表現に関心のない層にどう到達できるのか、文化政策を超えた仕組みが必要との意見があった。また、CSCDのメンバーで劇作家の平田オリザ氏は、市民の表現が市場経済に絡め取られる危険性を指摘した。さらに、PUBLICINGというメディア実践の思想を提唱する長谷川一氏からは、作品と、その作品を生みだすやり方やプロセスは分けて考える必要があり、注視すべきは、生みだされる過程や関係性ではないかとのコメントがあった。

 後半は、参加者も加わりコミュニケーションデザインの冒険をめぐる刺激的な議論が交わされた。司会の水越氏がこの研究会をたとえて、異なった場所(領域)から集まってきて、それぞれ自分たちの方言で話したとの感想があった。まさに、さまざまな方言を話すひとびとが行き交う駅の様相を呈しており、そのこと自体がプラットフォームを考える研究会にふさわしかった。

 最後に、会場を提供してくださった大阪大学コミュニケーションデザイン・センターに感謝したい。会議室の窓から岡本太郎の「太陽の塔」が見え、表現を支える仕組みと臨床の知を議論するのに、これ以上の場はないと思われた。

                    境真理子(江戸川大学)